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それゆえ、本報告書はきわめて適切な時期に公表されるといえる。報告書では、 上記の義務が日本でどの程度認識され順守されているかが検証されている。人権法 及び国際人権基準の専門家によってなされた本報告書は、この議論に関与する者に とって非常に有意義なものとなるであろう。


本報告書の第2部では、日本政府がしばしば死刑存置を正当化する時に用いる議


論、すなわち国民の大多数が死刑を支持しており、民主主義国家は国民の刑法への 信頼と支持を維持するために世論を無視することはできない、とする主張を検証す る。この主張は、国民の意見や信条に関する日本政府による独自の調査に依拠する ものである。佐藤舞氏は、非常に優れた独自の世論調査に基づき、国の世論調査が 国民全体の意見を反映したものであるとする政府の解釈には深刻な欠陥があると主 張する。さらに、佐藤氏の調査結果は、死刑廃止反対論者の意見が、政府が主張す るほど熟考されたものではなく、かつ十分に可変性をもつものであることを示して いる。死刑制度が実際にどのように機能しているかについてより多くの情報を提供 しその透明性を高めること、また死刑執行率が殺人事件発生率を少しでも抑えるの かどうかを検証した学術的に信憑性のある実証研究に基づく確かな証拠を提示する ことよって、より正確な国民の死刑への態度が浮かび上がってくる。その場合にお ける国民の死刑支持の水準は、日本政府が世論を導きあらゆる状況における全犯罪 について死刑を恒久的に禁止している大多数の先進民主主義国に自信をもって仲間 入りすることができるものである。死刑が廃止されれば、死刑制度が無い社会に育 つ新しい世代の大多数は、死刑を単に過去の残忍な行為の一つとみなすようになる ことを、歴史的経験が示している。


以上から、本報告書で示される根拠は自由権規約及び国際連合への加盟の下で守 るべき国際的合意による基準を日本が満たさない限り、死刑を執行するべきではな いことを意味している。この主題について、四半世紀にわたって詳細な研究を行っ てきた末に私がたどり着いた結論は、既存のあるいは新しい死刑制度がどのように 運用されようとも、死刑制度は必然的に人権(具体的には恣意的に生命を剥奪され ない権利及び残酷、非人道的かつ品位を傷つける刑罰を受けない権利)を侵害する ということである。従って、日本の死刑運用について公正さや人道性を確保する改 善が早急に実施される必要はあるが、基本的人権の侵害から囚人を真に守るために は、死刑の完全廃止以外に方法はないのである。


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