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序論


ロジャー・フッド1 本報告書は、現在の日本において死刑制度が遵守されている手続き及び状態を改


善しようとしている人々や、また最終的な死刑廃止を支持する人々にとって、非常 に重要で大いに興味深いものであろう。


本報告書は、政府関係者だけでなくより幅広い層の読者に、「市民的及び政治的 権利に関する国際規約」(自由権規約;国連総会本会議で1966年採択:日本は 1979 年に批准)及び「死刑に直面する者の権利の保護の保障に関するセーフガード」 (1984年に国連において満場一致で採択、1989年と1996年に条項追加)の下で規 定された順守されるべき日本の義務についての情報提供を目的としている。


日本は、自由権規約を留保なしに批准している。第6条第2項は死刑を禁止して はいないものの、死刑存置国における死刑の適用範囲を「最も重大な犯罪」に限定 している。また同条項は、公正裁判、再審手続き、特赦・減刑の権利、死刑囚の人 道的な取扱いなどによって、意志的に生命を奪われないよう保護する基準を定めて いる(第6条第1項)。日本がこの中の複数の基準の適用を否定し続け、第7条の 「残酷、非人道的もしくは品位を傷つける取扱い」の禁止に反していることが、こ の報告書で明かにされている。さらに日本は、第6条第6項の「この条のいかなる 規定も、この規約の締約国により死刑の廃止を遅らせ又は妨げるために援用されて はならない」というように6条に内在する主張である死刑廃止を目指すことを無視 し続けている。日本の自由権規約に対する姿勢の根底にあるものは、死刑が刑罰と して残るかどうか、又は合憲と認められるかどうかは日本国内の刑事政策の問題で あり、世論調査による国民の意向を考慮して政府が決定するべきであるという長年 の主張である。


本報告書は、上記の二つの主張に応えるものである。すなわち第一に、日本は批


准している条約の義務を回避することができないということ、第二に、国民の大多 数が死刑を必要と考えており死刑廃止を受け入れないという主張は、疑わしくかつ 誇張されたものであり、またそれは死刑制度に係る政策の秘密主義が生み出した結 果であるということである。2007年12月の国連総会で、日本が反対票を投じた死 刑執行停止決議が採択されたことを受けて、日本政府は2008年初めに死刑存置を主 張する57ヶ国とともに国連事務総長に口上書を提出した。その中で、「死刑廃止 に関して国際的なコンセンサスは存在せず」、また死刑は「まずもって刑事政策の 問題であり、最も重大な犯罪に対する抑止力となっている」として同決議への反対 を表明している。日本は2008年、2010年及び2012年に死刑執行停止決議が再度提 出された際も反対票を投じたが、2008年及び2010年の投票後に提出された決議反 対の口上書には参加しておらず、また2012年の決議を受けて2013年春に提出され るであろう口上書にも参加しないことが望まれている。2008年に15人の死刑が執 行されたのをピークに死刑執行数は減少し、また法務大臣の頻繁な交代の影響で死 刑執行数が不規則となった中、規約人権委員会の決定及び裁定や海外の最高裁判所 及び違憲審査裁判所の判決に応えるために、自由権規約や国連のセーフガードへの 対応を含めて、死刑制度やその執行方法に関してより開かれた議論が行われるよう になった。


1 オックスフォード大学犯罪学名誉教授、オールソールズカレッジフェロー。


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