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その日にちを知らされない。さらに、少数の拘置幹部、検察官、検察事務官 以外は執行に立ち会うことができない。したがって、死刑執行に対する独立 した立場からの監督はなされず、残虐性や過度な苦痛が生じていないか否か を監視する機会もほぼ存在しない。また、こうした密行主義のため、日本の 国民は自国の死刑の現実について、ほとんど情報を与えられていない(より 詳細には、本報告書第2部の日本の死刑に対する世論について参照された い)。


5. 日本の死刑確定者に対して行われている厳格な隔離処遇のため、死刑確定 者の間では精神障害が珍しくない(ただし、政府の密行主義のため精神障害 のある死刑確定者の正確な数は不明である)。日本には、心神喪失の状態に ある死刑確定者の執行を禁じる規定があるが、死刑確定者の精神状態を鑑別 する独立したメカニズムは存在しないため、この規定は殆ど実効性がない。 アムネスティ・インターナショナルが2009年に報告したように、日本は、 精神障害のある死刑確定者の執行を防ぎ得ておらず、かつ、精神疾患を抱え る死刑確定者に適切な医療を提供してもおらず、よって、自国の刑事訴訟法 の重要な条文に違反しているばかりでなく、国連経済社会理事会決議198 4/50のセーフガード第3にも違反している。27


日本では、絞首刑が唯一の死刑執行方法とされており、日本政府は、絞首刑の方 法が1873年以来、基本的に変わっていないことを認めている。絞首刑によって どのような事態が生じるのかについては、それを実際に知る者(一握りの官僚)が 滅多に語ろうとしないため、殆ど知られていない。しかし、1883年に、ある女 性死刑確定者が絞首刑にされた際、その頭部が、胴体からほぼ引きちぎれる状態に なったという事実がある。2011年、放火及び殺人の罪で起訴され死刑判決を受 けた高見直被告人の弁護団は、絞首刑は日本国憲法によって禁じられている残虐な 刑罰にあたると主張して、絞首刑合憲性を争った。この事件では、死刑執行に立ち 会った経験のある元検察官と、オーストリアの法医学者の2名の専門家が絞首刑の 実際について証言した。元検察官(土本武司氏。彼は基本的に死刑を支持している) は、「率直なところ、絞首刑の残虐性は耐え難い」と証言し、法医学者(ヴァルテ ル・ラブル博士)は、自身の広範に渡る調査結果に基づき、絞首刑は残虐だと証言 した。しかし、最終的に、大阪地方裁判所は、絞首刑は日本国憲法第36条(「公 務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。」と規定する)に違反し ないと結論付けた。その理由は、絞首刑の際のある程度の苦痛は「甘受されなけれ ばならない」というものであった。しかしながら、これは被執行者の苦痛を最小限 に留めるよう求めるセーフガードの第9に適合しない。一橋大学の本庄武准教授は、 この判決は「残虐さも許容される」という考え方に基づくものだと指摘する28 被告人の弁護団は判決に対して控訴している。


。高見


日本では、死刑確定者の拘禁環境、死刑確定者が執行までに過ごす期間の長さ、 死刑確定者の処遇、そして精神障害のある死刑確定者に対する適切な医療がなく、 これらは規約第7条及び第10条第1項に違反すると同時に、セーフガードの第3 及び第9、さらに経済社会理事会決議1996/15による付加されたセーフガー ド第7に違反している。


27 Amnesty International, “Hanging by a Thread: Mental Health and the Death Penalty in Japan”, September 2009 、


(ASA 22/005/2009), pp.1-93. 28堀川恵子「絞首刑は残虐か」


122~131頁における引用。 12 「世界」825号(2012年1月)63~72頁及び827号(2012年2月)


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