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国連経済社会理事会は決議1989/6455


で、加盟国に対し、死刑事件の被告に、


「それ以外の事件で与えられる保護に加えて、手続のあらゆる段階で弁護人から十 分な援助を受けられることを含め、防御の準備に時間と便益を与えることにより、 特別な保護」を与えるよう勧告している。


Frank Robinson対ジャマイカ事件で規約人権委員会は、死刑事件で被告人が選任 した弁護士が出廷を拒否した場合に、国家がみずから弁護人による効果的な弁護が なされるよう用意する義務を負うのかどうかについて検討した。委員会は「死刑事 件において法的援助を受けられるようにしなければならないことは自明のこと」56





あり、ジャマイカ共和国が被告人に弁護のないまま死刑事件の審理を受けさせたこ とは第14条第3項(b)に違反すると判断した。


Trevor Collins対ジャマイカ事件では、弁護人は被告人に事前の相談もなく、死刑 判決に対する上訴を事実上放棄した。規約人権委員会は次のように述べている。 「条約の第3項(d)は、被告人に費用の負担なく弁護人を選ぶ権利は認めていない が、いったん弁護人が任命されたならば、司法の利益のために効果的な弁護が確保 するための方策がとられなければならない。」57


(強調引用者) 同様にJohn Campbell対ジャマイカ事件58 において規約人権委員会は、被告人が上


訴を棄却された後まで国選弁護人の名前を知らされなかったのは、防御の準備の機 会が与えられなかったということであり、自由権規約第14条第3項(d)に違反すると 判断した。


日本の法律および実務 日本には、弁護人による有効な弁護を求める法の規定は存在しない。それどころ


か、裁判所は、弁護人による明らかに不適切な弁護活動をも救済する傾向にある。


最高裁判所平成17(2005)年11月29日第三小法廷判決は、殺人等の罪 で起訴された被告人が、審理途中から全面否認に転じたにもかかわらず、弁護人が それ以前の被告人供述に基づいて有罪を前提とした弁論をした事案について、有罪 弁論を容認して何らの措置をとらなかった第一審裁判所に、訴訟手続きの法令違背 はないとした。最高裁は、弁護人が依頼人がした自己に対する刑事訴追についての 供述を無視することも許容される、と判断したのである。


もっとも、その後、東京高裁平成23(2011)年4月12日判決は、被告人 の無罪主張に対して弁護人が有罪弁論を行った同種の事例において、「被告人を防 御すべき弁護人の基本的立場と相いれない」として、訴訟手続きの法令違背を認め、 原判決を破棄した。


死刑事件においても、十分な弁護活動がないまま判決が確定する事例は少なから ず存在するが、弁護活動を理由に死刑判決が破棄された事例はない。これは、自由 権規約第14条第3項(d)がすべての死刑事件においては尊重されていないという深刻 な懸念を生むものである。


55前記注6の決議のパラグラフ1(a)を参照。


56 (Communication No. 223/1987), U.N. Doc. CCPR/C/35/D/223/1987 at paragraphs 10.3 and 10.4. 57 CCPR/C/47/D/356/1989,12 May 1993 at [8.2] 58 CCPR/C/47/D/307/1988,20 June 1988


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