内閣府世論調査の「廃止派」及び「存置派」の定義の偏りは、死刑の将来的廃止 を支持する人々が「存置派」として括られていることからも明らかである(永井 2005:第3段落目)。2009年の内閣府世論調査の集計によると、「場合によっては 死刑もやむを得ない」を選んだ86%の回答者のうちの34%は、将来の廃止に肯定的 である(「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」)。この意味に おいて、将来も含めて死刑廃止に反対している確固たる「存置派」(「将来も死刑 を廃止しない(61%)」+「わからない(5%)」)は、全回答者の56%にすぎないと解 釈することもできる。日本政府の文書等(例えば、内閣府2009)に引用される死刑 「存置派」86%とは大きく異なる解釈となる。
さらに、将来的な死刑廃止に対する意識を問う設問も、不明確な言い回しが使わ れている。設問は、「将来も死刑を廃止しない方がよいと思いますか、それとも、 状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよいと思いますか」である。「状 況が変われば」が死刑廃止の条件として設定されているが、これが何を意味するか 不明である。2009年の内閣府世論調査で「場合によっては死刑もやむを得ない」と 回答した者の中で「状況が変われば廃止」を選択した三分の一が想定した「状況」 として、犯罪件数の低下、仮釈放のない無期刑の導入、または不当な死刑の発覚な ど様々な例を挙げることができよう。
死刑に対する国民の態度を明らかにしようとするこれらの設問自体が、調査結果 を歪ませている可能性がある。もし設問がより客観的な表現で構成されていたのな らば、死刑の支持率はより低いものとなったかもしれず、この点に関しては下記の 章で考察する。
その他の補足的な質問
これまでの内閣府世論調査では、死刑の抑止力に関して日本国民の意見を問う設 問が一貫して設けられてきた(内閣府1956;1967;1975;1980;1989;1994; 1999;2004;2009)。2009年の調査では、抑止力に関する設問が二項目設けられて いる。その一つの設問は、もし死刑が廃止されたら凶悪な犯罪が増えると思うか増 えないと思うか、であるが62%の回答者が犯罪は増えると考え、逆に犯罪は増えな いと考えた者はわずか10%であった(内閣府2009)。回答者の多数が、死刑制度の 存在が凶悪な犯罪を減少させていると考えていることは明らかであるが、この設問 の選択肢に死刑が廃止されても「凶悪な犯罪は現在と変わらない」という選択を加 えることで、設問の質が改善できるであろう。抑止力に関するもう一つの設問は、 「存置派」78
への補足的質問で、死刑存置を選んだ理由を訪ねている。挙げられた理 由(複数回答)の中で、「死刑を廃止すれば、凶悪な犯罪が増える」(52%)は、 やはり回答者の多くが選んだ選択肢の一つであった(内閣府2009)。
上記の結果から、回答者の多くが死刑は凶悪な犯罪を抑止するものと信じている ことを示している。しかし死刑の犯罪抑止効果は、学術的な社会科学研究によって 支持されているものではない。様々な研究によると、死刑制度(特に処刑の可能性) と殺人事件の発生率の間には、負及び正の相関の両方があることが発表されている。 また、死刑に犯罪抑止力があるかないかを証明することは、事実上不可能に近いと する考え方が学術的な合意を得つつある(例えば、Nagin and Pepper 2012; Dezhbakjhsh and Shephaerd 2006; Fagan 2006, Hood and Hoyle 2008: 317-333)。日本の
78ここでの「存置派」は、内閣府世論調査において「場合によっては死刑もやむを得ない」を選択した 者を指す。
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