場合、1990年から1994年の死刑執行が行われなかった期間においても、殺人事件 の発生率が高まることはなかった。むしろこの期間は殺人認知件数が低下し、死刑 執行が再開した1994年に再び増加に転じた(団藤2000)。
また、内閣府世論調査では、死刑が犯罪抑止力を持つという認識が少なくとも正 確とは言えず、学問的にも争われていることを国民に知らせていない。この設問は、 内閣府世論調査において過去50年以上にわたり調査で毎回問われきたにもかかわら ず、死刑の犯罪抑止力に関する国民の信仰を問い直すことはなされていない。死刑 が他のいかなる刑罰よりも殺人の発生率を抑止する効果に関して、国民が信じてい るかどうかを内閣府世論調査で国民の聞くべきでない、と言うのではない。設問の 目的が国民の認識について問うのであって、情報に基づいた国民の判断について尋 ねるのでなければ、まったく理にかなった設問であろう。しかし、内閣府世論調査 による国民の回答は、死刑存続を正当化する政策を決める根拠として利用されてき ている。この点について、国民の回答に基づいて政策の方向を定めるのであれば、 回答者である国民に対して正確な情報を提供したり、誤った理解を正す試みが不可 欠となる。
死刑制度を廃止、及び存置する理由
死刑の犯罪抑止力に関する国民の意識とは別に、内閣府世論調査は回答者に死刑 存置または廃止を望む理由を尋ねているが、この設問も改善の余地がある。2009年 の調査では「存置派」及び「廃止派」別に用意された複数の選択肢からそれぞれを 支持する理由を選ぶ形をとっている。
存置派79 の理由
凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ 死刑を廃止すれば、被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない 死刑を廃止すれば、凶悪な犯罪が増える
凶悪な犯罪を犯す人は生かしておくと、また同じような犯罪を犯す危険があ る
廃止派80 の理由
人を殺すことは刑罰であっても人道に反し、野蛮である 国家であっても人を殺すことは許されない
裁判に誤りがあったとき、死刑にしてしまうと取り返しがつかない 凶悪な犯罪を犯した者でも、更生の可能性がある 死刑を廃止しても、そのために凶悪な犯罪が増加するとは思わない 生かしておいて罪の償いをさせた方がよい
死刑に関して「場合によってはやむを得ない」を選択した者(「存置派」)が回 答する設問の選択肢は、すべて死刑制度を「積極的に」支持する理由ばかりである。 「消極的(やむおえず)」理由から死刑制度の支持を選択した者を想定した選択肢
79ここでの「存置派」は、内閣府世論調査において「場合によっては死刑もやむを得ない」を選択した
者を指す。 80 ここでの「廃止派」は、内閣府世論調査において「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」を選 択した者を指す。
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