留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から48時 間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければ ならない。」と規定する。同条の「直ちに」が、どの程度の時間を指すのか については、裁判例は殆どなく、被疑事実の要旨の告知の遅延が争われた事 案はみあたらず、裁判所の基準は不明である。
他方、弁護人選任権の告知と弁解の機会の付与については、次の裁判例がある。 盛岡地裁昭和63(1988)年1月5日決定は、司法警察員による逮捕(逮捕状 の緊急執行)から約二三時間五〇分経過後に被疑者に対し弁護人選任権が告知され 弁解の機会が与えられた事案につき、勾留請求を却下した原裁判に対する準抗告審 において、逮捕手続に違法があつたとはいえないとして原裁判を取り消している。 したがって、日本の裁判所が刑事訴訟法第203条第1項について判断を示した僅か な事例からは、司法は、捜査当局に有利な方向で「直ちに」の解釈を行ってきたと いえる。
2. 刑事訴訟法上、弁護人が取調べに立ち会う権利は明記されていない。この点 について日本政府は、繰り返し、規約人権委員会から勧告を受けてきた38 この点、日本政府は、次のように述べて、弁護人の立会権を否定する。
。
「証拠獲得のための手段が限定されているため、被疑者の取調べは真実発見にとっ て最も重要な捜査手段である。したがって、日本は、取調べへの弁護人の立会の問 題には慎重な検討を要すると考える。日本はまた、現在、被疑者が弁護人と警察留 置場で面会するには何らの制約もないことを付け加えておく。」39 この政府回答には、被疑者からの自白を最も重要な証拠と位置づける立場が明確に 現れている。
3. なお、政府は、弁護人と警察に留置された被疑者との接見については、何ら 制限がないと述べている。しかし、現実には勾留場所が警察留置場であるか 否かを問わず、被疑者と弁護人との接見が制限される場合があることは、刑 事訴訟法第39条3項によって、次のとおり許容されている。
「検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下 同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第1項の接見又 は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定 は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならな い。」
そして、以下の最高裁判所の2件の判例は、弁護人の接見が制約される場合につ いて、以下のような判断を示している。
「捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があったときは、原則として何 時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調中であると か、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な 場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、 被疑者が防禦のため弁護人等と打ち合わせることのできるような措置をとるべきで ある。」
38日本政府報告書の第 3 回審査(1993)、第 4 回審査(1998)、第 5 回審査(2008)における勧告を参照。 39 2012年10月、普遍的定期的審査に関する作業部会において日本政府が行ったプレゼンテーション。
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