葉に見られる。別の司会は、グループ討議中の雰囲気が、最初の討議では意見が 「対立」していたのが「中立」的な方向に変化し、例えば、「あなたの意見は、私 の意見とは違っているけど、あなたの意味することは理解できる」というようにな った、と述べた。
存置と廃止の2つの意見は、スペクトラムの両端にあたるものである。しかしイ ンタビューの質的分析から、参加者は複雑で矛盾する意見を抱いており、廃止か存 置かの間を行き来していることが読み取れた。審議の前には見られなかった矛盾す る微妙な態度は、情報提供と対話の機会によるものと考えられる。存置派と廃止派 の両方の見方を包括する態度は、他の人の意見を受容し理解している表れであると 解釈できよう。しかし、これは上述の量的分析の信頼性を真っ向から損なうもので はない。質的データには、参加者が主張し続けた結論、あるいは意見を変えたこと の背景で何が起きたのかその全容がはっきりと表れている。事前調査では死刑に対 する意見を5段階で答えることは容易な課題であったかもしれないが、事後調査で はより複雑で曖昧な課題となり、参加者に提示された5段階の選択肢は適切なもの ではなくなったと言っても間違いないであろう。
グループ討議、専門家による講演、調査後のインタビューを含む一連の審議の過 程で繰り返し議論されたのは、被害者の家族のために死刑を存置する必要があると いう意見である。この議論は、存置派だけでなく、一部の廃止派にも理解できる意 見として受け入れられていた。死刑を支持する最も一般的な理由は、調査前も調査 後も「被害者の家族の気持ち」であった。
グループ討議では、参加者が討議するテーマに関して特に事前に用意されてはい なかった。そうした状況で、参加者は、死刑事件における被害者の家族への配慮不 足についてかなりの時間をかけて議論していた。グループ討議の記録を見ると、参 加者が被害者家族の視点に重点を置く一方で、犯罪者やその家族への配慮はまった くないことがわかる99
。参加者は犯罪者を「他人」と見なし、被害者を「私たち」の 一人と捉えており、「常軌を逸脱した他人」は「私たちと同じようになるまで、社 会化、社会復帰、治療の必要がある」(Young 1999: 5)、または死刑執行が必要であ る、と考えているように見受けられる。
他方で、多くの参加者が、刑事裁判に関して正しく理解していなかったことが明 らかになった。判決における被害者の役割についてはっきりとした知識がなく、 「被告人」と「犯罪者」の区別を理解していなかった。グループ討議と調査後のイ ンタビューにおける参加者の発言を分析した結果からは、刑事裁判は「被告人」と 「被害者」が争う戦場であるかのように考えていることが明らかになった。また参 加者は、「犯罪者の権利」という言葉は理解できないとして、現行の刑事司法制度 の下では「被害者の権利」が侵害されていると感じていた。「被告人には弁護士が つくのに、被害者には弁護士がつかないのはおかしい」と発言する参加者もいた。 裁判とは、「被害者が正義を勝ち取る場」という意識が強く、また「正義」は被告 人が有罪になることにかかっているという認識であった。参加者は、裁判を有罪無 罪を裁く場、あるいは犯罪に対して判事が規範的な宣告を行う場としては考えてい なかったのである。
99討議中、唯一1人の参加者が、他の参加者に犯罪者の家族の立場になってみるように促した。 49
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