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殆ど無きに等しい。53


ここで、死刑は特別ではないという前提から導かれる3つの


帰結をみてみよう。 第一に、日本の検察官は、死刑求刑を行うかどうかを事前に明示しない。死刑求


刑は、審理終結の前日、すべての証拠が提出され、弁護人が最終弁論を行う直前の 段階で初めてなされる。この非開示主義によって、日本弁護士連合会では、アメリ カの死刑事件弁護人にとってはごく当たり前の組織的なサポートすら、会員である 弁護人に提供することができない。非開示主義はまた、日本には死刑制度があるに もかかわらず、「死刑事件審理」と称されるべき何物も存在しないことを意味して いる。検察官以外は誰も、審理の終了段階まで、被告人の生命がかかっている事件 かどうかを知る余地がないからである。これは、弁護側からみれば、適切な弁護活 動を行うのに非常に大きな障害である。


第二に、日本では、死刑事件の審理は、たとえ被告人が事実を否認している場合 であっても、事実認定と量刑判断の手続きが分かれていない。したがって、被告人 が控訴事実を否認した場合、裁判で情状証拠が取調べられることはほとんどない。 なぜなら、そのような弁護活動は無実主張の妨げとなる可能性があるからである。 こうして、日本では、無実の主張は死刑判決を受ける可能性を高めることとなりか ねないのである。


第三に、日本では、死刑に値するか否かを判断する際に、裁判官および裁判員の 全員が合意する必要はなく、裁判体を構成する9人のうち6~8人の支持を要する 「特別多数決」すら要求されていない。日本では、人に死刑を科すのに、単なる 「混合多数決」―少なくとも職業裁判官1人を含む5人-で足りるのである。これ とは対照的に、アメリカでは、死刑を存置するすべての法域(フロリダ州を除く。 同州の立法府は死刑の科刑について他の州の実務に合わせるようとの州最高裁の命 令を無視している)で、死刑判決は12人の陪審員が、死刑が適切な制裁だと合意し た場合にのみ、科すことができる。したがってアメリカでは、34の死刑存置州のう ち33の州では、弁護人がひとりの陪審員に死刑に反対するよう説得できれば、死刑 は回避されるのである。これに対して日本では、弁護人が裁判体の4名につき死刑 を回避するよう説得したとしても、なお、依頼人に死刑が科されるのである。日本 の混合多数決方式をもって、日本の官僚がしばしば展開するところの、自国の死刑 制度は極めて「慎重」だとの主張に合致したものだというのは、困難である54


。 効果的な法的援助


自由権規約第14条第3項(d)は、すべての者に次の権利を認めている。 自ら出席して裁判を受け及び、直接に又は自ら選任する弁護人を通じて、防御する こと。(中略)司法の利益のために必要な場合には、(中略)弁護人を付されるこ と。


53 David T. Johnson, “Capital Punishment without Capital Trials in Japan’s Lay Judge System”, Asia Pacific


Journal, Vol. 8, Issue 52 (December 27, 2010), pp. 1-38. 54 David T. Johnson, “Progress and Problems in Japanese Capital Punishment”, in Confronting Capital Punishment in Asia: Human Rights, Politics, Public Opinion and Practices, edited by Roger Hood and Surya Deva, Oxford University Press, 2013(近刊)


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