奪うことはならないという原則は守り続けていたが、グループ討議の中で、犠牲者 の家族に同情して死刑を受け入れそうになる場面が数回あったことを認めていた。
死刑存置の意見を強固に変えなかった別の参加者は、調査後のインタビューで審 議後には自分の意見にさらに確信を持つようになったと答えた。彼は、その理由と して、無期懲役の囚人が仮釈放される可能性があることがわかったため、こうした 状況では死刑は廃止すべきでないと感じたからだと説明した。死刑を支持する意見 は確固としているように思われるが、彼は、同じインタビューの中で、もし仮釈放 のない無期懲役が導入されたら、将来的には廃止を支持するだろうと答えている。 彼にとっては、殺人犯に対する刑罰で最も重要な点は、犯罪者が仮釈放の無い無期 懲役によって自分の犯した犯罪の重大さを反省することにある。換言すれば、彼が 死刑を支持するのは「死」自体が重要なのではなく、ほかに適当な選択肢が無いこ とによるものなのである。
意見が確定しないままであった参加者の一人(調査Ⅲの前後の調査でも「どちら とも言えない」を選択)は、調査後のインタビューにおいて、存置派と廃止派の間 で意見が揺れ最も矛盾した意見を述べていた。存置派の視点で、彼女は「犠牲者の 家族」が死刑存置の理由だとしたものの、「犠牲者の家族が望むことは、犯罪者が 法の下で最も厳しい罰則によって罰せられることであって、死によるものではない のかもしれない」と述べ、死刑に関して疑問を持っていることも表明した。同様に、 彼女は犯罪者が自分の犯した犯罪に対して、死刑執行によるもう一つの死で解決す るのではなく、生きることによって後悔するよう促すことが重要だと述べた。しか し一方で、自らの命を断念せずして本当に償えるのかどうかに関して疑問を示し、 前述の彼女自身の見方と矛盾する見方を述べた。この参加者は、「死刑を執行する ように命じられた看守の苦悩について初めて知ったが、この情報がきっかけで廃止 の方に意見が変わった」とも述べている。
上述の3人の例では、調査Ⅲの前後で意見を変えなかった参加者を取り上げた。 次の例は、調査前は「どちらとも言えない」と回答したが、調査後には死刑は「あ った方が良い」に意見を変えた参加者である。この意見の変化は、存置の方向に意 見を変える要因となることが審議中に起きたことによるものと考えることができよ う。しかし、調査後のインタビューでは、前述の3人と似たような心理状態であっ たことが浮かび上がった。「どちらとも言えない」から「あった方が良い」に意見 が変わったことについて尋ねたところ、「まだ自分の結論に躊躇している」と述べ たが、それでもなお、今の自分の意見は「被害者の家族への敬意」を考えると消去 的な存置派であると主張した。また、インタビューの最後の段階で、「あった方が 良い」に調査後に意見を変えた理由として、「死刑は一般国民にとっての最も重い 刑罰の象徴として存置すべきだという結論にいたったからである。しかし、死刑執 行は止めて、仮釈放なしの無期懲役を導入するべきである」と述べた。この言葉か らは、彼女が死刑執行を望んでいないこと、それと同時に、迷いがあるものの、法 の下に死刑制度の存在することが、将来の犯罪者に対して抑止力となるだろうと信 じていることが分かる。
調査後に実施したインタビューの結果は、グループ討議に関して司会が抱いた印 象に呼応するものである。司会の一人は、より多くの情報と異なる見方に触れるこ とで、参加者は調査前の自分の当初の意見に対して確信が持てなくなり、2回目の グループ討議では自分の意見を明確に主張することができなくなったと述べていた。 明らかな例は、グループ討議の中で、日本人はなぜ死刑を支持するのかという疑念 が呈され、「日本には死刑があるから、死刑を望むのだ」と述べたある参加者の言
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