第6条第6項は、さらに死刑制度の現状を踏まえつつ、最終的な廃止を前提とす る。
この条のいかなる規定も、この規約の締約国により死刑の廃止を遅らせ又は妨げる ために援用されてはならない。
ウィリアム・A・シャバス教授は、国連総会の第三委員会11 において自由権規約の
草案が協議された際に、3つの「死刑廃止への重要な言及」が加えられたと述べて いる。すなわち第6条第2項は「死刑廃止国の存在を示すだけでなく、刑事法が進 むべき方向性を示したもの」である。そして第6条第6項は「締約国の目標を設定 している。準備作業からは、これらの変更が規約に完全な死刑廃止の立場を含めよ うとする努力の直接的な成果であることがうかがえる。これらは死刑廃止という理 想と、締約国が自国の刑事法を死刑廃止に向けて漸進的に発展させていく役割を担 うという意図の表れである。」12
ロジャー・フッド教授もまた、第6条第2項における生命に対する権利への例外
は、時代の産物であって、死刑廃止を最終目標とする第6条第6項と合わせて読め ば、決して死刑制度の存置を恒久的に正当化するものではないと主張している。草 案が作られたのは、当時まだ死刑廃止国が少数派であった1957年のことであり、 第6条は妥協の産物であった。合意にこぎつけるためには、まだ死刑を廃止してい ない国々のために第6条第2項で存置を認めざるをえなかったのである。
国連総会は1971年に、死刑制度の廃止の見通しのもとに漸進的に死刑を制限する ことを承認した。さらに規約人権委員会は、自由権規約第6条についての一般的意 見の中で、次のように述べている。 本条はまた、廃止が望ましいことを強く示唆する文言で一般的に[死刑] 廃止に言及 する。委員会は、[死刑] 廃止のあらゆる措置が第40条の意味における生命に対する 権利の享受についての進歩と考えられるべき…と結論する13
。」
第6条からは、以下のような死刑への制限が導き出される。 i. 死刑は最も重大な犯罪にのみ科され、また存置が可能であることは最終 的な廃止を遅らせ又は妨げるものであってはならない。
ii. 権限のある裁判所のみが、犯行時、死形適用に値するものであった行為 について死刑判決を言い渡すことができる。
iii. 死刑は、18歳未満の者が行った犯罪について科してはならず、また、 妊娠中の女子に対して執行してはならない。
iv. 死刑の執行に先立ち、特赦又は減刑を求める権利が与えられなければな らない(第6条第4項に関する○頁の記述を参照)。
規約人権委員会の先例は、どのような場合に死刑及びその他の生命の剥奪が自由 権規約の他の条項に反するのかを定めている。これには、公正な裁判を受ける権利 に関する規定の違反、また死刑の適用が非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い とみなされる場合が含まれる。これらの条項は、相互に切り離され独立した規定と して読まれるべきではない。自由権規約にも地域条約にも、無条件で死刑を廃止す
11国連総会第三委員会は、1957年11月13日から同月26日までの間に12回の会合を持った。 12 William A. Schabas, The Abolition of the Death Penalty in International Law, 3rd ed., Cambridge University
Press, 2002, 70頁 13規約6条に関する一般的意見(1982年7月27日採択)
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