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48 SAN DIEGO YU-YU


JULY 16, 2012


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CLOSE UP 2012


米医療保険改革、最高裁が合憲判決 加入義務容認、


オバマ氏再選に追い風


「公的保険は社会主義」    米国では80年前から論争  オバマ政権が推進 した医療保険改革法 は、国民の保険加 入義務化の是非など をめぐって国論を二 分し、大統領選の争 点ともなった。国民皆保険制度が定着した日本 と異なり


「自由」を国是とし自助精神を重んじ


る米国では、公的保険を「社会主義的」と非難 する意見が根強く、80年近く前から同様の議論 が繰り返されている。同法の根幹部分を合憲と 認めた6月28日の連邦最高裁判決後も論争が 続くのは確実だ。


* * * * * 連邦最高裁はオバマ政権の医療保険改革法を大筋で合憲と認定したが「大きな政府」への反発は根強く、保守とリベラルの対立に根差した論争は今後も続きそうだ (6月28日)


 米連邦最高裁は6月28日、オバマ政権最 大の政策実績である医療保険改革法につい て、根幹部分である国民の保険加入を義務付 けた条項を含め合憲との判決を言い渡した。 世論を二分したオバマ改革の象徴は、司法の 場で正当性を認められた。


「公平な社会」を


掲げ、11月の再選を狙うオバマ大統領への追 い風となる。


5対4


 最高裁判決は9人の判事が5対4に割れ る僅差となった。ポイントは次の通り ——  ① 国民の保険加入義務化は税の一種とみな すことが可能。 ② このため、憲法が定める連邦議会の立法 権限に属し合憲。 ③ 低所得層向けの医療保障「メディケイド」 の大幅拡大は条件付きで容認。  オバマ大統領は同日、合憲判決をを受けて 「全ての米国民にとっての勝利」と歓迎する


‘公平な社会’ 声明をホワイトハウスで発表、これからは 「前


に向かって進むときだ」と訴え、同法に基づ いて医療保険改革を完遂する決意を明らか にした。


非米国的


 一方、大統領選の共和党候補となるロム ニー前マサチューセッツ州知事も声明を発表 し、同法撤廃には「オバマ大統領を交代させ るしかない」と対決姿勢を表明。共和党の カンター下院院内総務は、同法を廃止するた めの法案を7月に下院で投票にかける方針 を示した。  国民に保険加入を義務付けた同法は自由 を侵害し


「社会主義的」


今回の判決を梃 (てこ)に、同法に強く反対 する


「ティーパーティー (茶会)」など保守派


勢力を結集させ、11月の大統領選や議会選 に向け民主党とオバマ大統領への批判を展 開していく戦術だ。


税解釈 vs. ‘個人の自由’  


非加入者の死ぬ権利を侵害? 判決は米国民の勝利と大統領


「国民の誰もが安心して医療を受けられる


社会」を公約して当選したオバマ大統領は、 2010年3月に医療保険改革法を成立させた。  共和党の強い26州では、


保険加入義務化 全国民のために


 オバマ大統領は昨年5月の国際テロ組織 アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容 疑者殺害など、重要な発表に利用してきた ホワイトハウスのイーストルームで声明を読 み上げ、判決の重要性を演出。医療保険を 取り巻く問題への米国民の懸念を理解してい ると述べ、


「私は米国人のためにこの改革を 実行した」と意義を強調した。■


米メディアが誤報  判決速報で混乱  米医療保険改革法を合憲と判断した連邦最高 裁判決で、CNN-TVやFOX-TVが当初「全国民へ の保険加入義務化は違憲」と誤報するなど、難解 な判決文の解釈をめぐり米メディアが混乱した。  CNNは違憲とした速報で


「オバマ大統領への大


きな打撃になる」と解説。その後、判決文を詳 細に検討した結果として「合憲」との報道に切り 替えた。ニュースキャスターは判決文が いたよりもずっと複雑だった」と釈明した。


「想定して 資料: 共同通信社


は憲法1条が定めた連邦議会の立法権限を 逸脱すると違憲性を指摘し


「個人の自由を侵


害する」と提訴。だが、最高裁のロバーツ 長官は判決で、加入義務化は「税の一種とみ なすことが可能」で、憲法の範囲内だと指摘 した。  米国には日本のような国民皆保険制度が 存在せず、


保険加入率は約83%。高齢者と低 と非難する共和党は、


所得層を対象とした公的医療保障を除くと、 勤務先が提供する民間保険が一般的だが、 失業で無保険状態に陥るなどして十分な医 療を受けられない国民が多数いる。  同法は高所得層への増税を財源に、中低 所得層への保険料公費補助や保険加入義務 化を盛り込んでいる。2014年に本格施行、 2021年末までに加入率を95%に引き上げ、 保険料を抑制し、財政赤字削減も図る。


 保険に加入しない道を選んだ若い男性が意識 不明の重体になり、負担しきれない医療費の支 払いを迫られたら死ぬしかないのか —— 。「それ が自由というものでしょう。決断に伴うリスクは 自身が負うのです」  昨年9月の共和党大統領候補者討論会。司 会者の質問に対し、自由至上主義者 (リバタリ アン) のポール下院議員がそう断言すると、保 守派中心の聴衆から大歓声が上がった。  同じく保守派の支持を集めた候補、サントラ ム元上院議員は選挙集会のたびに独立宣言の 一節を引用し「創造主に授けられた自由」が米 国的価値観の根幹だと強調。保険加入の義務 化は「憲法に定められた自由を明白に侵害する」 と訴えて喝采を浴びた。  こうした主張は今に始まったことではない。 古くは大恐慌の最中に就任した民主党のフラン クリン・ルーズベルト政権下で1935年、公的扶 助の基礎となる 「社会保障法」が成立した際も 「社会主義的政策」との批判が上がり、共和党 上院議員の1人は「米国の進歩が止まる」と警 告した。


* * * * *   「偉大な社会」を掲げ、社会福祉政策に力を


入れた民主党のリンドン・ジョンソン大統領が 1965年に高齢者向けの公的保険「メディケア」 と低所得層向けの「メディケイド」を制度化した 時も


「非米国的」との非難にさらされた。


 共和党のレーガン大統領は就任以前、メディ ケアについて「社会主義の一派で、この国のあ らゆる自由を侵害する」と述べたとされる。  民主党のクリントン政権は1993年、国民皆 保険制度を提案したが、議会の賛同を得られず 翌年廃案に追い込まれた。  米国の社会保障制度に詳しい作家のナン シー・アルトマン氏は、今回も


「(自由が侵害さ


れるという) 根本的な懸念や議論の筋立ては同 じだ」と指摘している。


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