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アメリカ健康ノート 第130回


腸管出血性大腸菌  (Enterohemorrhagic E.coli = EHEC)


 


 今年の4月から5月にかけて日本で、そし て5月から6月にはヨーロッパで、腸管出血 性大腸菌 (EHEC) が原因の集団食中毒事件が起 こり、多くの死者を出しました。  日本では、焼肉チェーン「焼肉酒家えびす」 の生牛肉ユッケに汚染されていた腸管出血性大 腸菌 O (オー) 111 による食中毒で、現在 (6月 14日) までに4人の死者と多くの感染者を出 しています。  また、北ドイツを中心にヨーロッパ各地に 広がった腸管出血性大腸菌 O104 による食中 毒は、これまでに死者22人、感染者2,200人 という、稀 (まれ) に見る惨事を引き起こし ていますが、現時点ではドイツ産のもやしが 原因だと考えられています。


アメリカでも


 腸管出血性大腸菌は、1982年、アメリカの オレゴン州とミシガン州で発生したハンバー ガーによる集団食中毒事件で、患者さんの糞 便から原因菌として O157 が発見されたのが 最初で、その後、世界の各地で食中毒の原因 菌として検出されるようになったのです。  1993年には Jack in the Box のハンバーガー の食中毒で、シアトルで4人の子供が死亡し ました。この時の原因菌も O157 でした。  日米とも毎年多くの腸管出血性大腸菌が原 因の食中毒が起こっていますが、そのほとん どが O157 によるものです。


大腸菌


 大腸菌は恒温動物の腸に住む細菌で、腸管 出血性大腸菌などの一部の大腸菌を除いてほ とんどは害はなく、腸の常在菌として、腸内 でビタミンK2などを作ったり、他の有害な細 菌が増殖するのを防ぎ、宿主 (人) に貢献を しています。


 大腸菌は腸だけに存在するわけではなく、 体外でも短時間存在が可能です。環境中に存 在すると、便による汚染の指標になります。  大腸菌は人が生まれて2日もしないうちに 大腸の常在菌になります。そして、有害な遺 伝的な変化が起こらない限り、そのまま人体 に危害なく生存していきます。


有害な大腸菌 金 一東 日本クリニック・サンディエゴ院長


日本クリニック医師。 神戸出身。岡山大学医 学部卒業。同大学院を経て、 横須賀米海軍病 院、宇治徳洲会等を通じ 日米プライマリケア を経験。その後渡米し、 コロンビア大学公衆 衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、 内科・小児科合併研修を終了。 スクリップス・ クリニックに勤務の後、現職に。 内科・小児 科両専門医。


 有害な大腸菌は、胃腸炎 (食中毒)、尿路 感染症、新生児髄膜炎などの細菌感染を起こ します。そして、溶血性尿毒症症候群 (HUS)、 腹膜炎、乳腺炎、敗血症、肺炎、脳症などの 原因にもなります。  O (オー) 157、104、121、26、103、111、145 などは致死的な毒素を作り出します。病原性 のある大腸菌は以下のように分類されます。 ・ 腸管毒素原性大腸菌(ETEC)―― あまり 毒性は高くありませんが、開発途上国では 最も多い感染性下痢の原因です。毎年2億 人が感染し、38万人が亡くなります (多く が開発途上国の子供)


・ 腸管病原性大腸菌(EPEC)―― 下痢・腹痛


の原因になります


・ 腸管侵入性大腸菌(EIEC)―― 激しい下痢 と高熱の原因になります


・ 腸管出血性大腸菌(EHEC)―― 最も有名 なのが O157 で、出血性の下痢を起こしま す。そして HUS の原因になります


・ 腸管凝集性大腸菌(EAEC)―― 水様性下 痢の原因になります


腸管出血性大腸菌(EHEC)


 ベロ毒素 (志賀毒素) を産出し、それによっ て、いろいろな症状、合併症を起こす大腸菌 ですが、 VTEC (ベロ毒素産生大腸菌) や STEC (志賀毒素産生大腸菌) とも呼ばれています。  上述したように、代表格の O157 は1982年 にアメリカでのハンバーガーによる集団食中 毒事件原因菌として発見され、世界的にその 存在が知られるようになりました。


腸管出血性大腸菌の感染源


 O157などの腸管出血性大腸菌はもともと乳 牛などの腸管に住んでいて、糞便として環境 に出て食品などを汚染します。また、牛を処 理する時に、腸管と筋肉 (通常の食用牛肉) が混ざり、腸管内の大腸菌が牛肉を汚染して しまうことがあります。こうして汚染された 食品が人の口に入ると食中毒を起こします。  不衛生な環境下での食べ物の準備や調理、 人畜の糞尿でできた肥料からの汚染、汚染さ れた水で育てられた農作物、


また、


便の培養と毒素の検査を行います。 腸管出血性大腸菌による食中毒の治療


 尿路感染症など大腸菌が原因の感染症には 抗生物質を使用しますが、腸管出血性大腸菌 による食中毒の場合、抗生物質で治療すると 食中毒の治癒には貢献しないで、逆にHUSの 可能性を高めるという報告があるので抗生物 質による治療は通常行いません。また、ロペ ラマイドのような下痢止めもHUSの可能性を 高めると考えられています。


 下痢で水分と電解質が多量体外に出てしま います。スポーツ飲料水など水分を十分取っ てください。HUSの症状があれば入院治療が 必要です。


腸管出血性大腸菌による食中毒の予防


 腸管出血性大腸菌による食中毒の予防には、 厚生労働省のサイト (www1.mhlw.go.jp/o-157/ o157q_a/index.html) に詳しく説明されているの で、そのサイトを参考にしてください。ここ では要点だけを列挙します。 ・ 食品は消費期限を確認し、新鮮な物を購入 ・ 食品を購入して家に持ち帰ったら、すぐに 冷蔵庫や冷凍庫で保存する


・ 調理前に手洗いをし、きれにな調理器具を 使用


牛のひき肉、


生乳、低温殺菌されていない牛乳・ジュース・ チーズや他の食品も感染源になります。また、 牛に触ったり、感染した人の便に触ったり、 湖で水泳中に水を飲んだりしても感染の原因 になります。


 過去に感染源となった食品には、牛肉、牛 レバー刺し、ハンバーグ、牛角切りステーキ、 牛タタキ、ローストビーフ、サラダ、貝割れ 大根、キャベツ、メロン、ミートパイ、アルファ ルファ、もやし、レタス、ホウレン草、アッ プルサイダーなどがあります。その他、井戸 水も原因になりました。


腸管出血性大腸菌による食中毒の症状


 腸管出血性大腸菌が体内に侵入して、症状 が発現するまでの潜伏期間は通常3〜4日く らいですが1〜10日くらいの幅があります。 症状としては、腹痛、血性の下痢、嘔吐、発 熱 (38.5℃以下のことが多い) など。ほとんど の人は5〜7日以内に症状が改善しますが、 約5〜10%の人は溶血性尿毒症症候群 (HUS) を合併し、排尿回数の減少、疲労感、貧血症 状などが始まります。HUSを合併しても多く の人は数週間以内に病状が改善しますが、時 には永久的に腎臓にダメージが残ったり、死 に至ることがあります。


腸管出血性大腸菌による食中毒の診断


 血性の下痢、嘔吐、腹痛などの胃腸症状が あり、腸管出血性大腸菌の食中毒を疑う時は、


・ 肉は75℃、1分以上の加熱 (電子レンジ可) ・ 肉 (特にひき肉) は中までよく火を通す ・ 野菜・果物は流水でよく洗い、皮をむく ・ 野菜を湯がく場合は100℃、5秒間 ・ 生肉と生鮮野菜がまな板などで触れ合わな いようにする


・ まな板やふきんは熱湯消毒、手洗い ・ 食品を長く室温で放置しない ・ 残った食品はきれいな容器で保存 ・ トイレを使用した後、乳幼児のおむつの交 換の後、動物や家畜を触ったり、動物のい る場所に行った後は手洗いをする


・ 生乳、低温殺菌していない乳製品やジュー ス (フレッシュアップルサイダーなど) を 避ける


・ 湖、池、プールなどで水泳中や遊んでいる 時に水を誤って飲まない


X X X X X


※この記事に関するご質問は日本クリニック ☎858-560-8910まで。過去の「アメリカ健康 ノート」の記事は、私のウェブサイト www. usjapanmed.com で読むことができます。


筆者閑談「マニア」


 マニアというわけではないのですが、昔から 格闘技が好きです。試合を見るよりも、自分で 体を動かすタイプです。昔は空手、現在はテコ ンドーをしています。


「空手バカ一代」を読んで 空手家になりたいと思った頃もありました。


66 SAN DIEGO YU-YU


JULY 1, 2011


Medical


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