CLOSE UP 2011
西欧中心の美術史から東洋の潜在力へ アジア美術の隆盛と日本の存在感
「アジアの美術」とは何か 福岡トリエンナーレ アジアをひとまとめに語るのは極めて難しい。民 族、宗教、風土、経済。何を取っても統一性はなく、 地域差は著しい。 3年ごとに開かれる 「福岡アジア美術トリエンナー レ」 (2012年開催予定) は、
その困難な課題と向き合う
国際美術展だ。来年で第5回を数える。地球規模で 経済・文化の均質化や情報化が進む中、
「アジアの美
術」とは何かを、その重層性と関係性を通して再考し ようとする意図が感じられる。 現代美術の尺度でいえば、アジアの芸術作品には 大きな “格差” がある。 そっくりに飾られた隣り合わせの部屋で、似て非な る映像が展開する中国の楊福東 (ヤン・フードン) の ビデオ作品。虫眼鏡がないと見えない極小の人形が 小部屋の下の隅を密かにぐるりと巡る韓国のハム・ジ ンの作品 —— など。 洗練された風刺が利いた中韓の芸術家らのインス タレーションの一方で、過去の出展ではブータンの作 家の素朴な絵画やラオスの子供向けアニメーションも 並んだ。西欧美術の進化論的な視点ならばこの差は “開化”の時間軸で捕えるだろう。だが、
本展の妙味は、 *方力鈞 (ファン・リジュン=中国現代美術画家) 「シリーズ2 No.3 」(部分) /福岡アジア美術館蔵 (「アヴァンギャルド・チャイナ」より)
そういった鑑賞者の思考の尺度を問うところにある。 例えば、スリランカのパラ・ポトゥピティヤによる 舞踊家の胸像。一見、伝統工芸のような華美な彫刻は 安手のプラスチックと電球で飾り立てられている。そ こには工業製品に覆われ尽くした世界の現状が映る。 しかし逆に、“侵食者” を取り込み、あるいは2つの 文化の間を軽やかに飛び越えて生み出された新表現 とも読める。西洋の事物や思潮を変異させて取り込 む近現代のアジアの融通無碍 (むげ) さが興味深い。 安易な文化相対主義やオリエンタリズムの文脈によ らず、
アジアの多重世界の可能性をどう読み解くかだ。 中国、 インド、 ベトナム…。アジアへの注目は
経済に限ったことではない。今、西欧諸国の美 術館は、経済・社会・文化あらゆる面で急激に発 展するアジアの美術に熱い視線を注いでいる。 それは同時に、
新たな座標軸の中で、 日本をどう
位置付けるかが問われることでもある。 “脱” 西欧中心
「20世紀前半はパリを中心に美術を考えてい
たが、今では世界的な視点を持つようになった」 (パリ・ポンピドーセンター国立近代美術館アル フレッド・パクマン館長)。
「キュビズムでもピカソとポロックら米仏だけ
で考察するのは狭すぎる」 (ニューヨーク近代美 術館=MOMA=グレン・ラウリー館長) ―― 。 森美術館 (東京) が海外の著名な美術館 館長ら6人を招いたシンポジウム「今、世界は アジア現代美術にどう向き合っているのか?」。 近代美術史をリードしてきたエキスパートの口 からは、意識の転換を窺 (うかが) わせる発 言が相次いだ。 彼らが特に注目するのがアジアの美術。
西の均質性 → 東の多重性へ転換 様々な近代化スタイルと豊かな源泉 日本は現代美術の全体像を示せ
30 SAN DIEGO YU-YU JULY 1, 2011
MOMAは所蔵品全体の15%がアジア関連。 近年、傘下にある美術館「MOMAPS1」で欧米 以外の現代美術を幅広く紹介している。 ポンピドーでは日本人アーティスト150人の 作品を所蔵。今年開催する主要な7つの展覧 会のうち、2つがアジア美術関連だという。ま た今年5月から、日本を代表する前衛アーティ スト草間弥生さんの大規模回顧展が、英国・ テート、ポンピドーのほか、米国、スペインの 計4か国の美術館を巡回している。
発展と多様性
「アジアのアーティストは、今日の出来事に 対して、これまでとは違う視点をポンと投入す ることができる」と話すのはテートのニコラス・ セロータ館長。 テート・モダンでは1900年代から2000年 にかけて、10都市の前衛芸術を紹介する展覧 会を開催した。パリやウィーンと並び、東京、 ムンバイ (インド) などの作品も展示。
の見方は今後変わる。それは苦痛ではなく、 むしろワクワクする体験です」 こうした姿勢の背景にあるものは何か。南 條史生・森美術館館長は、文化的にも歴史的 にも均質な西欧に比べ、アジアの多様性が重 視されているとみる。
「アジアには様々な近代
化のスタイルがあり、現代美術も国・地域にそ れぞれ豊かな源泉がある。多くの価値観が共
存する時代だからこそ、アジアが重要になって いる」
アジアの中心に
そんな中、日本はどう存在感を打ち出すのか。 数々の国際巡回展を手掛けるデビッド・エリ オットさんは「草間弥生や村上隆ら数人のアー ティストが繰り返し出てくるだけで、
日本の現代 アートの全体像はいまだ見えてこない」と指摘。
「今の日本の深さ幅広さを紹介する展覧会をど んどん海外に発信するべきだ」 アジア美術をリードする役割も求められる。 南條館長は教育とプラットホームの提供を挙げ
「アジア独自のミュゼオロジー (美術館の理念) を確立する手助けをすべきだ」と言う。 中国では今後2,000を数える美術館が建設 予定だといい、アジア各地で建設ラッシュが始 まっている。日本には欧米型の大規模館はない が、
「歴史 「
越境する現代アート 次の表現、
模索続く 世界で最も長い歴史のある現代美術の祭典、 ベネチ
ア・ビエンナーレ。欧米を中心とする各国が恒久的な パビリオンを持つ形態から “現代美術のオリンピック” とも称される。横浜美術館館長の逢坂恵理子さんは
「新興国にとって、文化を通じて自国をアピールする格 好の舞台」と話す。参加国拡大の背景には、100年 以上の歴史と国別参加という形態があるとみる。 6月に開催された主要会場の一角を占めた日本館で は、美術家
・ ン 「てれこスープ」
束芋(たばいも)の映像インスタレーショ を展示。
「井の中の蛙大海を知らず」
のことわざをモチーフに、文意を肯定的にとらえ、井 の中の世界の広がりを表現した。
「蛙」を内向きと言
われる若者世代や日本社会と置き換えれば、現代を 生きる日本人へのエールのようでもある。展示はプレ ビューの期間中、行列ができる人気だった。 一方で、
主要会場の企画展などから日本人の作品は
金沢21世紀美術館、地中美術館 (香川県) などユニークなミュージアムが各地で生まれた。
『ここで今造るならどのような美術館がいいの か』という発想が必要」 (南條館長)。他にも、 修復技術や美術品輸送のノウハウなど、貢献で きることは多いという。 アジアならではの視点で現代美術を解釈し、 歴史化するために日本が果たす役割とは何か。 南條館長は「日本が議論を喚起し、アジア各国 への協力を重ねていけば、
中心になれるはずだ」と話している。
アジアネットワークの ■
消えた。目立ったのは中国の作品。ジャパンパッシン グ (日本素通り) とも言える現状に「国際的な注目度 や経済動向と美術も連動」と嘆く関係者も多かった。 政治や国際問題、地球環境だけでなく、スポーツ まで表現の域を広げる現代アート。
美術展の総合ディ レクターを務める北川フラムさんは、その有りようを
「常に将来の予感や不安を形にしてきたアートは9.11 テロ以降、
現実に先を越されてしまった」 と分析する。
圧倒的な現実が立ちはだかり、先行きが不透明な 現代。一歩も二歩も時代の先を表現してきたアーティ ストが行き場を模索する。その結果の表れが、加速 するアートの越境なのかもしれない。 北川さんは 「東日本大震災以降、美術に何ができる のか、誰もが自問する局面にある。これからの時代に 登場する表現を注視していきたい」と話す。
資料: 共同通信社
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