68 SAN DIEGO YU-YU
JUNE 1, 2012
アメリカ健康ノート (141) Medical
金 一東 高山病
(Altitude Illness) 金 一東 日本クリニック・サンディエゴ院長
登山やスキーで高所に行く人が増えて来ま したが、2,500m (8,000ft.) 以上の高所に行く 予定のある人は高山病を発病する可能性があ ります。高所でのレジャーを楽しむためにも、 高山病に対する予防、対処について理解して おきましょう。
高山病とは ●
高所に行くと、空気が薄くなってきて、体 が呼吸で吸収する酸素の量が下がってきます。 海抜ゼロ地点に比べると1,600mでは20%、 2,400mでは25%、8,849mでは66%も大気中 の酸素濃度が減少します。体内に入る酸素が 少なくなると、毛細血管から周辺の組織に水 分が漏出して、浮腫が起こります。その浮腫 の起こる場所や程度によって高山病の様々な 症状が出てきます。
高山病のリスクとその対処
高山病は、通常2,500m (8,000ft.) 以上の高 所で発病しますが、子供は大人以上に高山病 になりやすく、50歳以上の人は逆になりにくい とされています。ただ、
ついて以下を参考にしてください。 ●
3,000m (9,800ft.) 以上の高所で、1日当り 500m (1,600ft.) 以上高度を上げる人。 対処:1日当り500m (1,600ft.) 以上高度を 上げた高所で泊まらない、1日当り1,000m (3,200ft.) 高度を上げる場合は、もう1日余 分にその高所で泊まります。アセタゾラマイ ドの予防服用を考慮します。
高山病のリスクが高い人:①以前、高山 病を発病したことがあり、1日で2,800m (9,100ft.) 以上の高所に行く人。②以前、高 所肺水腫を発病したことがあり、1日で 3,500m (11,400ft.) 以上の高所に行く人。③ 3,000m (9,800ft.) 以上の高所で、1日当り 500m (1,600ft.) 以上高度を上げる人。④非 常に早い速度で高度を上げる人 (例えば、7 日以内にキリマンジャロを登る人)。 対処:アセタゾラマイドの予防服用が強く勧 められます。
高山病の症状 個人差がありますので、 自分が高山病を発病するリスクと、その対処に
高山病のリスクの低い人:①高山病を発病 したことがなく、2,800m (9,100ft.) 以上の高 所には行かない人。 対 処:2,500 〜3,000m (8,200 〜9,800ft.) で2日以上過ごすと体が次第に順応してき ます。リスクの低い人では、アセタゾラミド の予防服用 (*後述) は必ずしも必要では ありません。
●
高山病のリスクが中程度の人:①以前、高 山病を発病したことがあり、1日で2,500〜 2,800m (8,200〜9,100ft.) の高所まで行く人。 ②高山病を発病したことはないが、1日で 2,800m (9,100ft.) 以上の高所まで行く人。③
高所に行くと尿の回数が増えたり、動作時 に軽い息切れが起こりますが、それは生理的 現象です。また、高所浮腫といって、手足や 顔が浮腫 (むく) むことがありますが、症状は 2〜3日で軽減します。通常、高山病は次の3
つに分類されます。 ●
急性高山病 これは高山病の最も一般的なもので、
(acute mountain sickness= AMS) 2,500m
(8,000ft.) 以上の高地で泊まる人の4人に1 人が発病します。症状は二日酔いに似てい て、頭痛が最も一般的で特に重要な症状で す。それ以外に疲労感、食欲不振、吐き気 や嘔吐、軽度のふらつき感などがあります。 頭痛は高所に着いて2〜12時間後くらいに 起こります。特に、初日泊まった翌日に多く。 通常1〜3日以内に回復します。
● 高所脳浮腫 = HACE)
(high-altitude cerebral edema
日本クリニック医師。 神戸出身。岡山大学 医学部卒業。同大学院を経て、 横須賀米 海軍病院、宇治徳洲会等を通じ 日米プラ イマリケアを経験。その後渡米し、 コロン ビア大学公衆衛生大学院を経て、エール 大学関連病院で、内科・小児科合併研修 を終了。 スクリップス・クリニックに勤務 の後、現職に。 内科・小児科両専門医。
これは急性高山病が悪化すると発病します が、稀 (まれ) です。高所肺浮腫に伴うこ とが一般的です。
● 高所肺浮腫
急性高山病の症状以外に、
傾眠状態、昏睡、精神錯乱、歩行時のふら つきなどの神経症状が出てきます。
(high-altitude pulmonary edema = HAPE)
これは単独で発病することもあるし、急性 高山病と高所脳浮腫に伴って発病すること もあります。4,270m (14,000ft.) の高所では 100人に1人が発病します。最初の症状は、 動作時の息切れ、そして安静時の息切れ、 咳、全身衰弱などです。酸素吸入や低所に 移動することが必要ですが、高所脳浮腫よ り早く悪化することがあるので早急な対処 が必要です。
高山病の治療
急性高山病を発病した人は300m (980 ft.) 以 上低所に移動すると症状は急速に改善してい きます。酸素吸入をすると症状が改善します が、酸素が利用できる場所が限られています。 頭痛は通常の鎮痛薬、吐き気に関してはオン ダンセトロンなどの吐き気止めで治療できま す。
アセタゾラミドは基本的には予防薬ですが、
治療薬としても役に立ちます。デキサメタゾン は中程度以上の急性高山病にはアセタゾラマイ ドより効果があります。同じ高所で安静にして も症状が悪化する場合は、低所へ移動する必 要があります。 高所脳浮腫は、医療機関が近くにあれば、 そこで酸素治療とデキサメタゾンの治療を受 けます。近くに医療機関がないような場所で は、まず低所に移動することが必要になりま す。
すぐに低所に移動できない時は、 ●
防と治療に使えます。作用としては、血液 を酸性に傾けさせ、それによって呼吸を活 発にします。利尿作用や手のしびれなどの 副作用が出ることがあります。125mgを12 時間毎に服用します。高所に行く前日から 服用を始め、その後2日間服用します。さ らに高所に上がる人は引き続き服用します。 サルファ剤に関係があるので、サルファ剤 に重度のアレルギー (アナフィラキシー) の あった人は服用を避けた方がいいでしょう。 ● デキサメタゾン
(dexamethasone)
デキサメタゾンはステロイド薬です。急性高 山病と高所脳浮腫の予防と治療に使われま す。アセタゾラミドと違って、途中で服用を 止めるとリバウンドが起こることがあります。 高所に継続的に上がる人は、アセタゾラミ ドを予防薬と使用し、デキサメタゾンを治 療薬として取っておきます。
ニフェジピン ニフェジピンは高血圧の薬ですが、高所肺 水腫の予防と治療に使われます。
高山病の予防
2,500m (8,000ft.) 程度の高さで数日過ごして から、それ以上の高さに行くのが理想的です。 そして徐々に高度を上げて行きます。1日当り 500m (1,600ft.) 以上の高さで泊まるのは避けま す。1日当り1,000m (3,300ft.) 以上高度を上げ て泊まる場合は、その高度でもう1日過ごす ようにします。 リスクに応じて、アセタゾラマイドを予防的 に服用します。
高山病と慢性疾患 酸素吸入、 ■ 筆者閑談 「緊張」
もう30年以上も前の話。医学部の入試試験の会場。高校 を出て、ずーっと働いていたので、周りの受験生は自分よりも かなり年下。共通一次試験元年で受験情報は役に立たず。緊 張した入試でした。
あるいは携帯用高圧バッグを使用します。 高所肺浮腫の場合は、まず低所に移動する ことが大事です。すぐに低所に移動できない時 は、酸素吸入や高圧バッグの使用を行います。 軽度の症状で、医療機関が利用できる時は酸 素吸入で改善することがありますが、医療機関 がない時は、低所への移動、酸素吸入、高圧バッ グの使用と共に、肺動脈の血圧を一時的に下 げるニフェジピンを使う方法もあります。
高山病で使われる薬 ●
アセタゾラミド (acetazolamide) この薬は利尿薬ですが、急性高山病の予
高血圧、冠動脈疾患、軽度の肺気腫、糖 尿病などで高山病のリスクが高くなるわけで はありません。ただ、重症の肺気腫 (COPD) や重度の心疾患のある人はリスクが高くなる ので医師に相談してください。妊娠への影響 に関してはあまり情報がありませんが、2,500m (8,200ft.) 以上の高山に行くのは避けた方がい いでしょう。
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この記事に関するご質問は日本クリニック☎ 858-560-8910まで。過去の
「アメリカ健康
ノート」の記事は、私のウェブサイト www.
usjapanmed.com で読むことができます。
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