40 SAN DIEGO YU-YU
JUNE 16, 2012
香辛料の大地で育む医学 薬草の力、古人の知恵 インドのアーユルベーダ
人類は古代から、自然の力を借りてけがや病 気を治してきた。インドでは、薬草類を活用す る伝統医学「アーユルベーダ」が5、6,000年 前から伝わる。古人の知恵が生活に深く根付く 南部、西海岸のケララ州を訪ねた。
町中の香り
内陸部の高原から海岸まで、薬草類や食用 植物に恵まれた大地が続く。標高1,600メー トルの町、ムナールは山肌を一面、茶畑が覆 い、
山道の両脇にはつややかな実を付けたコー
ヒー、カカオ、カシューナッツの木々が並ぶ。 香辛料のコショウ、カルダモンも自生する。 港町コーチンは、16世紀に香辛料貿易の拠 点として栄えた足跡が数々の建造物とともに残 る。浜辺に連なるのは、固定式の漁網、チャ イニーズ・フィッシング・ネット。ベテランの漁 師が「ポルトガル人と中国人が活用していた手 法なんだ」と誇らしげに話す。 町中をほろ付き小型車で駆け抜けると、香 辛料の問屋から漂うカルダモンやショウガの香 りが混ざり、鼻の奥を刺激した。小売店では 女性店員が「黒こしょうは喉の病気に効く」と 力説する。 この考えがよって立つもの、それがサンスク リット語で「生命の科学」を意味するアーユル ベーダ。薬草の効能に応じて、葉や実、根など の成分を抽出、粉や油にして治療に使う。地 元では、歯磨きにも10種以上の薬草からなる 粉を常用する。 「薬草はインドで採取できるものばかり。全 部で千種を超えます」とコーチンのホテル
「ビ
バンタ・バイ・タージ・マラバール」のレジ・ラ ジ医師。
「アーユルベーダは
パ』という心身をつかさどる3つのエネルギー 『ドーシャ』のバランスを保つことで健康を維 持する医学。どれかが突出したら抑制します」
『バータ』『ピッタ』『カ
トマトベースの煮込みとフルーツだった。 ヨガに挑む
翌朝は、海に面したプールサイドでヨガに 挑んだ。瞑想はアーユルベーダに基づく生活 の大切な行為。
「ヨガでリラックスすることで
瞑想に導かれる」とラジ医師にも勧められた。 水を見詰めながら行うと心が安らぐ。 4日間だけの体験だったが、代謝が回復し、 髪につや、
肌に透明感を取り戻したと実感した。
西洋医学が発達する一方で、アーユルベー ダが広まるのはなぜか。
「治療に使うのは自然
のもので副作用がない。それが長く続いてい る理由でしょう」
(ラジ医師) (共同)
さまざまなスパイスを扱う専門店=インド・コーチン
全身に油
宿泊客が療法を体験できるこのホテルで、 早速診断を受けた。どのドーシャが強いのか、 ラジ医師が問診と脈診で体質を見極める。食 事は規則的か、眠りが浅いか、怒りやすいか など約20問を尋ねられ、持病やアレルギー についても回答。バータ体質と診断された。
薬草による治療を体験する宿泊客=インド・ コーチンのホテル「ビバンタ・バイ・タージ・ マラバール」
ホテル長期滞在がおすすめ
インド南部にはアーユルベーダ専用の病 院が点在し、地元の人々が治療を受けてい る。日本からであれば、2〜4週間滞在し、 病院と同様のプログラムを受けられるホテ ルがおすすめだ。 全身をデトックス
(解毒)し、心身を浄
早朝に海を見ながらヨガを体験する宿泊客=インド・ コーチンのホテル「ビバンタ・バイ・タージ・マラバール
治療は主に薬草類による療法、食事、生活 習慣の処方の3本柱からなる。ショウガの湯 で足を清め、セラピストがマントラ
一面に広がる茶畑=インド・ムナール 毒) (真言)を
夕日を受けるチャイニーズ・フィッシング・ネット =インド・コーチン
唱え薬草による治療を始めた。 基本の療法は、人肌に温めた油を頭のてっ ぺんから爪先まで塗りながらマッサージする ビヤンガ」
「ア や睡眠を促し、
。ストレスから解放し、血液の循環 リンパを刺激してデトックス
(解 するのが目的だ。慣れた手つきが心地よい。
ごま油などをベースに数十種の薬草の成分 を抽出した油を、体質や症状に応じて調合、 髪や体、顔ごとに使い分ける。スチームサウナ で温まった後、優しく洗い流す。 夕食の処方も依頼したら 十分な油と糖分を」と医師。
「スパイスを抑えて、 「減量したい」と
の訴えに応じて出てきたのは、搾りたてのオレ ンジジュースに、薬草たっぷりの野菜シチュー、
化する療法「パンチャカルマ」など、予防 医学としての機能も持つ。専用のバターを すすにして樟脳と混ぜてまぶたに塗ったり、 油でうがいしたりして、目や耳、鼻、口を 浄化する療法もある。 薬草からなる油と粉を全身に塗ってマッ サージする
「ウドゥバルタナ」は、食事療
法やヨガと組み合わせて2週間以上続ける ことで痩身効果があるという。
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