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CLOSE UP 2010


デジカメの波に呑まれたポラロイド 見直される写真文化とリアリティ


微妙な差異に潜む危うさ    デジタル化の中で異変  フィルムと印画紙で独 特な表現世界を創造して きた写真家たちが岐路に 立たされている。高機能 なデジタルカメラの普及 に反比例して、銀塩写真 用品の市場が急速に縮小 し、用材の生産中止が相次いでいるからだ。そ の中で起きている異変は、デジタル時代に潜む 危うさも考えさせる。 * * * * *


 現状を象徴する作品が今春出版された。鮮烈 な印象のモノクロ写真で、国際的に評価される 森山大道氏(*写真)の個人写真誌「記録」


。そ


のシリーズ第14、第15号はすべてデジタルカメ ラでの撮影だった。  森山調とも呼ばれる高コントラストの作品で 知られ、暗室作業に深い思い入れをもつベテラ ンが銀塩を離れざるを得なくなった原因は印画 紙だ。


物も(品質が)変わって、


「使っていた印画紙がなくなり、代わりの 自分のトーンが出ない。


写真家の森山大道氏がデジタルカメラで撮ったニューヨーク。 「写真にリアリティがなくなったとしたら、カメラでなく僕の問題だろうと思う」 (「記録」第15号より)


失望が重なり、デジタルの可能性を探さないと ダメだと思うようになった」  写真用品メーカーは近年、採算割れを回避す るために銀塩系商品の種類を絞り続けている。 それでも売り上げ減は止まらず、関係者は「3年 後に生産しているとは言えるが、その先がどう なるかは分からない」と話す。  撮影から現像までの一連の過程で作家性を 形作っている写真家にとって、愛用する型の写 真用品の消滅は画家が絵筆や絵の具を失うのに 等しい。


 ポラロイド社製のインスタントカメラ・ ルムの生産が中止され、


フィ この2年間のうちに


ほとんどの店から姿を消した。誕生から60 年余り。デジタルカメラによって「定年」に 追い込まれた形だが、豊かな芸術表現を生 み出し、新たなインスタント写真文化も派 生させた。


すぐ見たい   「写真をどうしてすぐに見られないの?」


 ある日、米国の科学者エドウィン・H・ラ ンドは3歳の娘ジェニファーを撮った際、娘 からそんな質問をされた。そんな素朴な疑 問が、1947年にインスタント写真が産声を 上げる契機となった。  


「愛する家族や風景を記憶の中だけでな


く、物理的に記録しておきたい。そんな思 いから出てきた写真ですよね」  こう話す写真家の森山大道さんは、東京 都内で2008年末、個展「バイバイ ポラロイ ド」を開き、撮り下ろし作品約600点を発


写真の原点から独特の芸術開花 ボケと荒れで遊ぶ新しい表現も 名刺大プリントが人気の


表した。  あらためて実感したのは


「ポラロイドは写


真の故郷、原点かもしれない」ということ だったとか ―― 。  


「ボタンを押すと舌のようにべろっと写真


が出てきて、じわじわと画像が現れる。徹 底したアナログ性、写真を楽しむ感覚は、 写真の先駆者ニエプスの『どうしてもこの 光景を残しておきたい』という180年前の 情熱とつながっています」  札幌、京都、高松などで芸術家による インスタント写真を展示した


「アメリカ:写


真の世紀」が開かれたのが2000〜01年。 アンディ・ウォーホルの


「セルフ・ポートレー


ト」をはじめ150点余りが展示された。  


「想像以上の表現が可能なことに驚かさ


れた来場者が多かったようです」と話すの は、企画に携わった東京都写真美術館の笠 原美智子さん。  インスタント写真の特徴について、焼き 増しができない


「一点もの」で希少性が高


いこと、そして独特の色合いを挙げる。  


「写真が乾くまでの間、手で触れると色 「チェキ」


が滲(にじ)んだりする効果を使ったアーティ ストもいます。独特の写真の大きさも含め、 この道具立てだからこそできた独特の芸術 表現があるのは確かです」


かわいい


 日常の新しい写真文化も花開いた。そ の担い手になったのが、1998年に富士 フイルムが発売したインスタントカメラ 「チェキ」


。ポラロイド社製と同様、撮っ


たその場で写真が出てくるが、プリント は名刺大と小さめで、若い女性たちの人 気を集めた。  富士フイルムの吉村英紀さんは


「180年ほどにわたった銀塩の時代が、


大きな臨界点を迎えたんだと思う」と森山氏。 デジタルでの実験と模索が続く。  デジタルの波に写真界が覆われる中で、不自 然な変化が表れてきたことを写真家の鷹野隆大 氏は指摘する。男性の身体をモチーフに性表現 を探究する鷹野氏は、白いシーツの上に人のい る作品が多い。


だが、 最近の印画紙は白やグレー


のきれいなトーンが出ないという。  


「デジタル写真には無菌室から取り出したよう


なクリアさを感じる」と鷹野氏。商品としては売 りになる特性だが、むしろ


「女の子


たちがチェキで自由に写真を撮るように なりました」  そうして生まれたのが家族や友人、身 の回りの雑貨などを


性に基づき少女たちが撮影する フォト」


。チェキによる写真は


「かわいい」という感 「ガーリー


はっきり撮れる」が基本だが、 フォト」などの場合、 「ボケ」


るのがユニークなところ。  吉村さんは


「くっきり、 「ガーリー


従来の常識に反して 「荒れ」を取り入れ、遊んでみせ 「自分の気持ちや場の雰囲


気を表現することが大事なようです。で きたての写真に文字を書き込み、友達と 交換するなどコミュニケーションの道具 としても写真の楽しみ方が広がりました」 と解説。今後も新しいインスタント写真 文化が生まれるのでは ―― と期待を寄せ ている。■


 写真が大量消費を前提とする工業製品である 現状では、 方で、


「ノイズやあいまいさ


に対して許容度が減っている感じ」を懸念する。 * * * * *


銀塩写真の将来見通しは厳しい。一 銀塩の魅力を世に広めることで命脈を保


とうとする動きがある。写真家の広川泰士氏ら が約5年前に開始した企画「ゼラチンシルバー (銀塩)セッション」はその一つだ。  写真家が手ずから焼いたオリジナルプリントは いかに微妙で繊細な表現か。同じネガを別々の 写真家が現像すると、どれほど異なった作品に 仕上がるか。  


「デジタル画像がどんなに高精細になっても、


銀塩の質感や奥行き感は出ない。両者は全く異 質で代替できないものです。銀塩がなくなれば、 写真表現の選択肢が狭まってしまう」と広川氏 は訴える。年ごとに若者の賛同や共感が広がっ ている手応えがあると言う。  単に画像の伝達手段と考えるなら、銀塩とデ ジタルの違いは素人目には気にならない。だが、 その小異が文化に重要な意味をもつ構図は、例 えばかつて谷崎潤一郎が、生活空間に入り込ん だ電灯が日本ならではの陰影を消したことを嘆 じたのを想起させる。微妙な差異がはらむ問題 性に意識を研ぎ澄ませる大切さを、銀塩写真を めぐる議論は考えさせる。 


資料: 共同通信社


44 SAN DIEGO YU-YU SEPTEMBER 1, 2010


© Kyodo


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