ウイルス性肝炎とは、ウイルスの感染で生じる アメリカ健康ノート
第138回 ウイルス性肝炎 (Viral Hepatitis)
肝臓の炎症のことですが、主なウイルス性肝炎には、 A型肝炎、B型肝炎、それにC型肝炎があります。 それ以外にもD型肝炎、E型肝炎がありますが、ア メリカでは一般的ではありません。頻度は高くない ですが、サイトメガロウイルスや EBウイルスなどに よる肝炎もあります。 ウイルス性肝炎は、肝硬変や肝臓がんの主な原因
になり、また肝臓の臓器移植で一番多い原因になっ ています。アメリカでは慢性肝炎の感染者が440万 人いますが、大半の人は自分が慢性肝炎にかかって いることを知りません。
ウイルス性肝炎の症状 せんが、
ウイルス性肝炎特有の症状というものは存在しま 症状としては、
発熱、 疲労感、 食欲減退、 嘔気、
嘔吐、腹痛、関節痛、黄疸、色の濃い尿、粘土色便 などがあります。白目の部分や皮膚が黄色くなる黄疸 があれば肝炎が強く疑われますが、それ以外の症状 だけで肝炎を診断するのは困難です。診断のために は血液検査が必要になります。血液検査で肝機能異 常があるとウイルス性肝炎を含めた鑑別が行われま す。A型肝炎、B型肝炎などの確定診断のためには、 肝炎の様々な抗体、ウイルス価などを調べます。 劇症型肝炎では症状が急激に進行し、肝不全によ
る死の可能性があるため、緊急の入院加療が必要に なります。
A型肝炎 A型肝炎はA型肝炎ウイルス (HAV) によって感染
する肝炎で、約4週間近い潜伏期間の後に発症しま す。HAVは肝臓で増殖し、便の中に含まれて体外に 排泄されますが、症状が出る2週間前から症状出現後 1週間の間は高濃度で便に含まれます。A型肝炎は慢 性肝炎に移行したり、慢性の肝臓病の原因にはなり ません。 10〜15%の人は最初の症状から快復しても6か
月以内に再発することがあります。A型肝炎で急性 肝不全になり、死亡する人は極めて稀 (まれ) です。 6歳以下の子供の場合、ほとんどの子供には症状が出 ません (感染児の7割)。従って、感染してもA型肝 炎だと診断されないことが多いのですが、成人の場 合は8割以上の人が肝炎症状を起こします。一度感 染すると血液内に抗体ができ、再感染を防ぎます。 A型肝炎ウイルスは便に含まれて体外に出るので、
感染経路は便から口というルートということになりま す。A型肝炎に感染した人に直接接触するか、A型肝 炎ウイルスに汚染された食品や水を摂取することで 感染します。感染後に血液中のA型肝炎ウイルス量 が増えますが、血液を媒介にしたA型肝炎の感染は 稀です。 アメリカでは、感染者の半分以上の人に特にリス
金 一東 日本クリニック・サンディエゴ院長
日本クリニック医師。 神戸出身。岡山大学医 学部卒業。同大学院を経て、 横須賀米海軍病 院、宇治徳洲会等を通じ 日米プライマリケア を経験。その後渡米し、 コロンビア大学公衆 衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、 内科・小児科合併研修を終了。 スクリップス・ クリニックに勤務の後、現職に。 内科・小児 科両専門医。
ク因子が認められてはいません。成人の場合でのリ スク因子としては、同性愛、違法ドラッグ使用者、外 国への旅行などがあります。 セックスを介したA型肝炎の感染はありますが、
便を媒介にして感染するということを考えると、コン ドームだけでは防げないことになります。 A型肝炎の予防にはA型肝炎の予防接種が一番効
果的で、アメリカでは1歳以上で受けることになって います。感染リスクの高い人、A型肝炎の合併症のリ スクの高い人、それ以外に予防接種を受けたい人も 対象になります。A型肝炎のワクチンはアメリカでは 6か月間隔を取って2回接種です (日本では3回接種)。 予防接種以外の予防法としては、手洗いや手の消毒
がありますが、A型肝炎の予防接種ほどは効果があり ません。 新たな感染の可能性が高い人は、感染して2週間
以内に免疫グロブリンの注射を受ける方法がありま す。
B型肝炎 B型肝炎はB型肝炎ウイルス (HBV) で感染する肝
炎で、症状が出るまでの潜伏期間は6週間から6か 月の間です。HBVは血液中に最も多く存在しますが、 体液、精子、膣の分泌物、傷口からの浸出液などにも 含まれています。 B型肝炎に感染すると、急性期だけで完全に治癒
する人と、慢性感染に移行する人がいます。成人の 場合、B型肝炎ウイルスに感染すると約半数の人に症 状が出ます。100人から200人に1人は急性の肝不全 で亡くなります。急性肝炎から慢性肝炎になる確率は 年齢が若いほど高くなります。乳児の約9割、5歳以 下の小児の約3割は感染すると慢性化します。成人 の場合は5%以下で、ほとんどの人は急性期だけで治 癒します。慢性B型肝炎の15〜25%の人は肝硬変や 肝臓がんになります。 HBVは血液や血液を含む体液の接触により感染す
るわけですが、感染リスクとしては、コンドームを使 用しない感染者とのセックス、感染者である母親から の出産、コンドームを使用しないで多くの人とのセッ クス、男性間の肛門セックス、性感染症の既往、違法 ドラッグの静脈注射など。他に、感染者とカミソリや 歯ブラシを共有すると感染の可能性があります。 B型肝炎の広がりを予防するには、母親から赤ちゃ
んへの感染 (垂直感染) を防ぐために、妊婦に対する B型肝炎スクリーニング、B型肝炎感染者である妊婦 から生まれてくる新生児に対する薬物による予防、乳 児に対する予防接種、B型肝炎ワクチン未接種のすべ ての小児に対する予防接種、リスクのある成人に対す る予防接種などです。 小児に対する予防接種の普及の結果、小児間のB型
肝炎の感染率は下降してきていますが、リスクの高 い成人での予防接種率は低いままです。最近のB型 肝炎の新感染者は、ほとんどが成人のハイリスクグ ループに属しています。 慢性B型肝炎の治療としては、現在、次の7種
類の抗ウイルス薬が使用されています。adefovir dipivoxil、interferon alfa-2b、 ペグ interferon alfa-2a、 lamivudine、 entecavir、telbivudine。 B型肝炎のワクチンは3回接種が必要で、2回目は 1回目の1〜2か月後、
3回目は1回目から4〜6か月後。
2回目から2か月空いていると接種可能です。 3回のワクチンを受けて、抗体ができているかどう
かを調べるのは一般の人には必要ありませんが、B型 肝炎に感染している母親から生まれた乳児、血液、体 液に触れることの多い医療関係者、B型肝炎感染者と 性交渉のある人、HIVなど免疫の下がっている人、人工 透析を受けている人などは必要です。抗体検査は3回 目の接種が終わって1〜2か月後に行います。 ただし、抗体検査をして抗体値が基準以下でも、B型
肝炎に対する予防効果はあると考えられています。 C型肝炎
炎で、
C型肝炎はC型肝炎ウイルス (HCV) で感染する肝 血液が媒介する最も一般的な慢性感染症であり、
320万人近くの人が慢性的に感染しています。遺伝型 は6つあり、亜型は50以上もあります。 感染者の6〜7割の人には症状が出ないか、軽い 症状だけで済みます。C型肝炎に感染して1〜3週間
するとC型肝炎ウイルス (HCV) の RNAが血液中に発 見できるようになります。感染して8〜9週間すると、 HCVの抗体が血液中に出現し始め、6か月経過すると ほとんどの感染者の血液に抗体が発見できるようにな ります。 C型肝炎に感染すると75〜85%の人は慢性肝炎
になり、60〜70%の人は活動性の肝臓病になります。 また、感染者の5〜20%の人は20〜30年後に肝硬 変に移行します。感染者の大半の人は自分が感染して いることを知らないので、他の人に感染させる可能性 があります。 HCVは過去の輸血や違法ドラッグの静脈注射など
で感染し、職業上や出産、あるいはセックスで感染す るのは稀です。 C型肝炎の治療としては、体内停滞時間を持続さ
せるようにペグ化したインターフェロンと抗ウイルス 薬のリバビリンの併用療法が基本で、この治療法に よって、治療後半年間HCVが血液から検出できない 状態 (ウイルス学的著効) が遺伝型1型に対し40〜 80%あります。1型はアメリカで最も多い型のHCV です。2型、3型の人に対しても最大で80%の効果が あります。
D型肝炎 D型肝炎はデルタ肝炎とも呼ばれていますが、D型
肝炎ウイルス (HDV) によって感染する肝炎です。RNA ウイルスの一種で、HAV、HBV、HCVとも違うウイル スなのです。急性肝炎も慢性肝炎もありますが、アメ リカではあまり一般的ではありません。HDVは不完全 なウイルスで、
単独ではなく、 HBV (B型肝炎ウイルス)
の力を借りないと増殖はできません。従って、B型肝 炎感染者の体内でしか増殖できないのです。D型肝 炎はD型肝炎感染者の血液に接触することによって 感染しますが、B型肝炎と同時に感染したり、すでに B型肝炎を持っている人に感染することがあります。 D型肝炎に対する予防接種は存在しませんが、B型肝 炎の予防接種をすることによって間接的に予防がで きます。
E型肝炎 E型肝炎はE型肝炎ウイルス (HEV) によって感染
する肝炎で、急性の感染を起こします。慢性の感染に なることはありません。アメリカでは一般的な肝炎で はありませんが、世界の他の地域では普通に存在して いることがあります。感染は、便を媒介として口に入 り、極少量口に入っただけで感染を起こすことがあり ます。衛生状態の良くない地域で汚染された水によっ て感染の流行が起こります。現在のところ、まだワク チンは存在しません。
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※この記事に関するご質問は日本クリニック ☎858- 560-8910まで。
過去の 「アメリカ健康ノート」 の記事は、
私のウェブサイト
www.usjapanmed.com で読むこと ができます。
筆者閑談「先生」
患者さんから先生と呼ばれますが、日本では 医師の間でも先生という呼称を使います。アメ リカでは医師の間はファーストネームを使うこ とが多く、特に上司に向かってファーストネー ムで呼ぶのは、なかなか慣れませんでした。
SAN DIEGO YU-YU
MARCH 1, 2012
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Medical
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